2017/12/24
PowerShellにおける「文」と「式」についての考察
この記事には「 独自研究 」に基づいた記述が含まれているおそれがあります。
この記事はPowerShell Advent Calendar 2017の24日目です。
一般的なプログラミング言語では、文(statement)と式(expression)の違いは、値を返すのが式で、返さないのが文、という説明がされることが多いと思います。しかし、PowerShellではこの説明は成り立たたず、文が値を返したりしてるように見えて良く分かりません。そこでPowerShellにおける文と式とはそもそも何なのかということを、仕様書(PowerShell 3.0のものですが)やAST(ShowPSAstモジュールが便利!)を眺めながら考えてみたので軽くまとめようと思います。
文(statement)と式(expression)の定義
PowerShellでは言語要素として、文(statement)と式(expression)が明確に定義されています。すなわち、言語要素の何が文であって、何が式であるかという定義は仕様できちんと決まっていて、ある言語要素が、状況によって文になったり式になったりと変化する、ということはありません。
パイプライン、代入、ifやforやfunctionなどは文です。
変数、数値/文字リテラル、オブジェクトのメンバ呼び出し、スクリプトブロック、単項または二項算術演算子で構成される式、カンマ演算子で構成される配列などは式です。
ただ、仕様書での定義と、実際に構築されるASTに齟齬があることはあります。
例えば「$a=1」のような代入については、ASTではAssignmentStatementAstとなります。一方、言語仕様上はassignment-expressionと書かれています。厳密には、言語仕様書のgrammer節によれば、assignment-expressionはexpressionではなくpipelineであるということになっています(お前は何を言っているんだ)。いずれにせよパイプラインは文であるので、AST通り、代入は文であるという解釈で良いと思います。
※仕様書にはassignment expressionとはっきり書いてあるんだから代入は式だろ!という意見を否定するものではないです。が、代入は文であると考えたほうが他の文法と整合性を取りやすいので、そういう立場をとりました。
しばたさんが9日目に書かれた記事で取り上げられているように、配列に関しても同様の齟齬があります。いずれにせよ「1,2,3」のような配列は、式と考えて良いと思います。
文と式の構造
PowerShellには文と式が存在することは分かりました。では文と式は何が違うのか? それを考察するために、具体的にいくつかの文と式の構造を取り上げて見ていきます。
パイプライン(文)
パイプラインといえば「Get-Process | Where-Object Handles -gt 100 | Select-Object ProcessName」みたいな|で繋ぐやつのことでしょ、と思われがちですが、言語仕様上は以下のようなものはすべてパイプラインです。
Get-Process -Name PowerShell # @コマンド1つだけ 1 # A数値リテラルだけ 1 + 1 # B算術演算子で構成される算術式 $a = 1 # C代入 gps | where Handles -gt 100 | select ProcessName # Dパイプ記号でコマンドを連結したもの 1 + 1 | Write-Host # E算術式をパイプラインでコマンドと繋げたもの
要はパイプラインというのは、一般的なプログラミング言語で、;で終わる一文に相当するものと考えればだいたい間違いないと思います。ただしPowerShellだと文末の;は必須ではなく、改行でもOKです。
パイプラインは以下のような構造を取ります。[]は省略可能を意味します。
パイプライン要素1 [ | パイプライン要素2] [ | パイプライン要素3] ...
または、
代入文
すなわち、代入文(後述)を除くパイプラインは1個以上のパイプライン要素から構成されており、複数のパイプライン要素が存在する場合はパイプ演算子|で連結されます。
パイプライン要素には式とコマンド(Get-Processとか)が存在します。ただし式は1つ目のパイプライン要素にのみ許可されます。
以上を踏まえると、@、Dはコマンドのみで構成されるパイプライン、A、Bは単独の式のみで構成されるパイプライン、Eは1つの式とコマンドで構成されるパイプライン、Cは代入文であることが分かります。
代入文
代入文はパイプラインなので、文です。代入文は以下のような構造を取ります。(ここでは+=などの複合代入演算子については省略)
式 = 文
ただし、左辺の式は、変数やプロパティなど、代入が可能な式である必要があります。
よって以下のような記述が可能です。
$a = $b # @変数 $a = 1 + 1 # A算術式 $a = Get-Process # Bパイプライン(コマンド1つ) $a = gps | where Handles -gt 100 # Cパイプライン(コマンド複数) $a = if($true){"a"}else{"b"} # Dif文 $a = $b = 1 # E代入文の結果を更に代入
言語仕様上、代入文の右辺には文であれば何でも書けるのですが、実際に代入が行われるのは、パイプライン、if文、for文、switch文といった、パイプラインに値を出力する文と代入文に限られます。ちなみにDのようにパイプラインと代入文以外の文を右辺に指定できるようになったのは、PowerShell2.0からです。
ところで上記@やAは右辺が式です。代入文の右辺は文じゃなかったの?と思われると思いますが、パイプラインの節で述べた通り、単独の式もパイプラインであり、パイプラインは文なので、三段論法でいくと式は文として扱われることになります。
※AST上では$a = $bの右辺はPipelineAst/CommandExpressionAst/VariableExpressionAstではなく、いきなりCommandExpressionAst/VariableExpressionAstとなっているので、この説明はASTの実装とはかみ合わないかもしれません。AssignmentStatementAst.Rightは確かにStatementAstを取るのですが、CommandExpressionAstはStatementAstから派生しているクラスなので、式の代入は問題なく行えます。
代入文は上記Eのようなことができることから分かる通り、値を返す文ですが、パイプラインには値を出力しません。値は返すがパイプライン出力がないものは、インクリメント演算子で構成される式($a++等)も同様です。
if文
パイプラインと代入文以外の文は色々あるわけですが、代表的なものとしてif文を取り上げます。一番シンプルなif文はこういう構造です。
if (パイプライン) {
文1
文2
....}
おそらく多くの人が誤解しているのではないかと思いますが、条件節に書くのは式ではなくパイプラインです。パイプラインを実行した結果、出力値がtrue、またはboolに型変換してtrueになる場合に、ブロック内の複数の文が実行されます。
よって以下のような記述が可能です。
if ($true) {} # @変数 if ($a -eq 1) {} # A論理演算子で構成された式 if ("a.txt" | Test-Path) {} # Bパイプライン if ($a = 1) {} # C代入文
@とAは普通の書き方ですが、実際には、1つの式のみ有するパイプラインを実行し、出力される値が判定されています。
条件節はパイプラインなので、当然Bのような書き方もできるわけです。また、代入文もパイプラインであるので、Cの書き方もできてしまい、注意を要します。
条件節に指定できるのはパイプラインだけで他の文は許容されないので、
if (if($true){}){}
というような書き方はできません。
※といっても実はこう書くと文法上はvalidであり、条件節内は「ifコマンド、パラメータ値1($true)、パラメータ値2(スクリプトブロック)」という解釈になってしまいます。
また、条件節にはパイプラインは1つのみ指定可能で、複数文を書くことはできないので、
if ($a;$b) {}
という書き方はできません。(パーサーもエラーを出す)
丸括弧式
さて、普通のプログラミング言語だと、()はグループ化や演算子の優先順を変更するのに用いられるものの、別に文法そのものに影響を与えるものではないと思います。多くの場合、ASTでも()の情報はそぎ落とされます。
ところがPowerShellでの丸括弧()は文法的な意味を有しており、ASTにもParenExpressionAstとして存在する、立派な式です。丸括弧式の構造は以下の通りです。
(パイプライン)
これは要するに、「パイプラインに()を付けると式になる」、ということです。()内のパイプラインで出力された値が返される式となります。具体的にどういうところで使うのかを示します。
2 * (1 + 3) # @数値演算の優先順を変更する ($a = 1) # A値を返すがパイプラインには出力しない代入文の値を出力させる $a[(Get-Hoge)] # B式は許容するがパイプラインは許容しない構文で、式に変換する Get-Process -Name (Get-Hoge) # Cコマンドのパラメータにコマンド実行結果を指定する
@の使い方は普通です。ただし、()はパイプラインを生成するので、「(1+3)」は「1つの式のみ有するパイプラインを実行し、パイプラインに値を出力し、その値を返す」という見た目より複雑な処理になります。
※少なくともAST上はそうなりますが、実際は何らかの最適化処理が入ってる可能性はあります。
代入を重ねる場合にはAのような書き方は必要ないのですが、代入した結果をパイプラインの出力としたい場合は()を付ける必要があります。この場合、$aに1が代入され、コンソールにも1が出力されます。
Bで挙げている、式を許容するがパイプラインは許容しない言語要素というのは実はあまりないです。前述した通りif文の条件節は式じゃなくて、パイプラインを取るといった案配です。ただ、たとえば配列や連想配列の要素を取得するインデックス演算子[]は、式のみ許容されます。なのでコマンドなどのパイプラインの出力値を指定したい場合は()が必須となるわけです。
ちなみに、()内にはパイプライン以外の文(if文等)は指定できません。また、複数のパイプラインも指定できず、あくまで1つだけです。
※任意の文あるいは複数の文を式としたい場合には、部分式演算子$()または@()を用います。両者とも内部の文がパイプラインに出力した値を返す、「部分式」となります。両者とも複数値が出力されると配列になりますが、@()は出力値が1つでも要素数1の配列を返す点が異なります。
まとめ?
PowerShellの文と式は厳密に定義されています。文は複数の文と式で構成されるし、式は複数の文と式で構成されています。文や式の構成要素が取る文や式の種類についても、各々、きちんと定義されています。
ただし、PowerShellにおいて「値を返すか返さないか」、「パイプラインに出力されるかされないか」、「式であるか文であるか」という概念はすべて独立しています。そのため、PowerShellの文とは何である、式とは何である、ということを一言で説明することは難しいんじゃないかと思います。
なので、本記事でこれまで述べてきたとおり、「パイプラインは文で、要素として式やコマンドを取りますよ」とか、「ifは文で、条件節にはパイプラインを取りますよ」みたいな、各論でしか表現できないのではないかなぁと、私はそういう結論に至りました。
しかしここまで書いてちゃぶ台をひっくり返すようなことを言いますが、ある言語要素が文であるか式であるか、ここまで仕様書を読んだりASTを追ったりして把握するのは、まあ楽しくなくはないですが、知らなくても別に大丈夫だと思われます。別に、ifの条件節には条件式を書くのだと理解していても不都合は特にないかと。
効用があるとすれば、例えば「if ((Test-Path a.txt)) {}」とか「foreach ($i in (1..5)) {}」とかの、余分な()を取り除くのには文法の知識が役立ちます。それもまぁ、心配だから怪しい所には常に()付けておく or 何か変だったら()付けてみる とかでもそれ程問題にはならないかもしれません。
2017/12/01
2017年のPowerShellを軽く振り返ってみる
この記事はPowerShell Advent Calendar 2017の1日目です。
毎年恒例のPowerShell Advent Calendar、今年も始まりました。ここ数年は私がトップバッターを務めさせていただいて、1年間のPowerShell界隈の出来事をさくっとまとめてみています。→2016年、2015年
昨年2016年はPowerShell 10周年の年であり、PowerShell 5.1、Windows Server 2016、Nano ServerとPowerShell Core Editionが各々正式版としてリリースされ、さらにはPowerShellがオープンソース化、マルチプラットフォーム展開を始めるという大きな変革があった年でした。
今年2017年は昨年ほど大きな変化はないとはいえ、昨年のOSS化からのマルチプラットフォーム展開を着実に進行させた年だと言えると思います。
以下、いくつかトピックを紹介します。
WMF 5.1インストーラーの登場
PowerShell 5.1を含むWMF (Windows Management Framework) 5.1は、Windows2016に同梱され、昨年8月にリリースされたWindows 10 Anniversary Updateにも同梱されました。今年1月に公開されたWMF5.1のインストーラーは、下位OS(Windows 7/8.1/Server 2008 R2/2012/2012 R2)のためのものです。
なお、Win10/2016に同梱のPester(テストフレームワーク)やPSReadline(コンソール入力支援)についてはWMF5.1には含まれていないので、別途PowerShellGetでインストールするのがお勧めです。
Azure Cloud ShellでのPowerShell サポート
Webブラウザ上で動作するAzureの管理用シェルである、Azure Cloud ShellではまずBashがサポートされていましたが、今年9月にPowerShellもサポート(まだプレビューですが)されました。
自動的に認証された状態で最新のAzure PowerShellのコマンドが使え、AzureのリソースにAzure:ドライブを介してアクセスすることが可能です。
注意点があって、このPowerShell版Azure Cloud Shell、どうも現バージョンでは(Nano Serverではなく)Windows Server Coreのコンテナ上で動作しているらしく、Bashに比べ起動が若干遅いのと、実体はPowerShell CoreではなくWindows PowerShell 5.1であることはちょっと念頭においておいたほうがいいかもしれません。
これ、PowerShell CoreではまだAzure PowerShellの全機能がサポートされてないからだと思うんですが、今後に期待ですね。
PowerShell for Visual Studio Code 正式版リリース
先だってオープンソース化された、マルチプラットフォーム対応のコードエディタであるVisual Studio CodeでPowerShellスクリプトの開発を行うためのExtension、PowerShell for Visual Studio Codeの正式版(1.0)が5月に公開されました。なお、現時点での最新バージョンは1.5.1となっています。
当初は、PowerShellに付属の標準スクリプト開発環境、PowerShell ISEの方が多機能だったようにも思いますが、今はもう完全にISEの機能を追い越したんじゃないかと思います。シンタックスハイライト、インテリセンス、デバッグ、コンソールといった基本機能はもちろん、Gitによるバージョン管理もVSCode自体でサポートされていることに加え、静的解析機能を提供するPowerShell Script Analyzer、テストフレームワークのPester、プロジェクト管理機能を提供するPlasterなどが統合されており、本格的な開発環境となっています。
また当然ではありますが、マルチプラットフォーム対応なので、WindowsではWindows PowerShell 、LinuxやMacではPowerShell Coreの開発が各々可能です。
公式ブログでのアナウンスによれば、今後ISEがなくなることはありませんが、ISEに新機能が追加されることはなくなり、PowerShell for VSCodeの開発に注力されることになります。ISEはとにかく標準添付である(GUI有効ならサーバーOSでも動く!)という強みがあり、シンプルなスクリプト記述であればそこそこ便利に使えるので、これからもシチュエーションに応じて使い分けて行けば良いのかなと思います。
PowerShell Core RCのリリース
昨年OSS化したPowerShell Core 6はα版として開発が続いていましたが、今年5月にはβ版となり、先月(11月)、ついにRC(Release Candidate)となりました。6.0.0のGAリリースは来年1月になるそうです。
OSS化直後からRCに至るまでの変更点は多岐に渡り、とても一言で説明できるものではないですが、ポイントとしては以下の3点に集約されるんじゃないかと思います。
- PowerShellが長年抱えていた問題点の洗い出しと修正
PowerShellがOSS化した当初は、ほとんどがWindows PowerShell 5.1のコードそのままであったと言ってよいかと思います。10年以上増改築が繰り返されたコードが突如、全世界に公開されたわけです。コミュニティの力でバグや変な仕様といった問題点が洗い出され、どんどん修正されていきました。
また、不足していると思われる機能はどんどん追加されました。既存コマンドレットのパラメータが増えるというパターンが多かったように思います。特筆すべきは、破壊的変更であっても妥当性があれば躊躇せずに取り入れていったことかと思います。これは英断ではありますが、一方でWindows PowerShell 5.1とPowerShell Coreでは細かいところで非互換性が色々出ていますので、移行の際には注意を要します。
- マルチプラットフォーム対応
前述の通り、OSS化した当初のPowerShell 6.0は、ほぼWindows PowerShell 5.1なので、Windowsでしか動作しない部分が多々ありました。それをLinuxやMac環境でも動作するように多くの修正が加えられました。
ところで、PowerShell 6.0は当初、条件付きコンパイルにより、Windows用に.NET Framework(Full CLR)をターゲットにして、Desktop Edition相当のPowerShellをビルドすることが可能でした。
しかしβ版になったタイミングで、OSS版PowerShell 6.0は、「PowerShell Core 6.0」すなわち、「.NET Core上で動作するPowerShell Core」であることが明確にされました。よってFull CLRターゲットのビルドはできなくなり、β6ではついにFull CLR対応のコードはすべて削除され、Core CLR対応のコードのみとなりました。
- Windows PowerShell用コマンドレットの呼び出し
PowerShell Core 6.0にはいくつかのコマンドレットが同梱されていますが、Windows PowerShell 5.1に含まれているすべてのコマンドレットを網羅しているわけではありません。また、WindowsやWindows Serverの管理のために提供されている、OS付属のモジュール群もCore 6.0には含まれておらず、α版の段階では実行も不可能(だったはず)でした。
β1からターゲットが.NET Core 2.0に移行したことにより、.NET Standard 2.0がサポートされました。このことによって、Windowsに付属の数千ものコマンドレットを初めとするWindows PowerShell用コマンドレット(要はFull CLRをターゲットとしてビルドされたもの)のうち、.NET Standard 2.0に含まれるAPIしか使われていないものであれば、原理的にはPowerShell Coreでも実行可能になりました。
Windows PowerShellの今後
さて、PowerShell Core 6.0がまもなく正式版リリースということですが、では従来のWindows PowerShellはどうなるのか、という話について。
公式ブログのアナウンスによれば、Windows 10やWindows Server 2016に付属のWindows PowerShell 5.1については、今後もサポートライフサイクルに則り、重大なバグフィックスやセキュリティパッチ提供等のサポートは継続されます。もちろん下位バージョンのOS/Windows PowerShellも同様です。
しかしながら、Windows PowerShellに新機能が追加されることは今後はなく、開発のメインはPowerShell Coreへと移行します。つまりは、PowerShell Coreの開発の中で追加された新機能、変更点、バグフィックスについては、基本的にはWindows PowerShellとは無関係ということです。
また、現状ではPowerShell CoreはWindows PowerShell環境に追加インストールし、サイドバイサイド実行が可能となっていますが、将来的にPowerShell CoreがWindowsに同梱されるかどうかについては言及されておらず、今のところは不明です。
以下は私見になります。
このような状況で、Windows PowerShellユーザー、とりわけWindows Serverの管理はするが、Linuxとかは特に…というユーザーはこれからどうすべきか?という点は割と悩ましいところだと思います。個人的には、WindowsやWindows Serverを管理するスクリプトが現時点であるなら、それを無理に今すぐCore対応にする必要はないと思います。現時点で今すぐCoreに移行すべき理由というのはとくに無いと感じます。Coreで追加、改善された機能はあるものの、Coreには無い機能もたくさんあるからです。
また新規にスクリプトを作る場合でも、対象がWindowsに限定されるのであれば、Windows PowerShell用に作れば良いのではないかと。OS付属のコマンドレットの動作は確実に保証されているわけですから。
ただし、ご存じの通りWindows10とServer 2016は半期に一度の大型アップデートで新機能が次々追加されていきます。その過程でPowerShell Coreが含まれるようになったり、Coreのみ対応のコマンドレットが追加される可能性は無きにしもあらずなのではないかとも思います。なので、Coreの状況をチラ見しつつ、未来に備えておく必要はあると思います。Windows10/Server2016の「次」も見据えて。
それとPowerShellでWindowsもLinuxも面倒みていきたい、という野心がある方は、Coreを採用していくのがいいのではないかと思います。ただし、現状しばらくは茨の道ではあるとは思います。
あとはスクリプトやモジュールを作成し公開する方は、より多くの環境で使われるように、可能であればCore対応を進めるのは悪くないんじゃないかと思います。
おわりに
他にもWin10/Server2016におけるPowerShell 2.0の非推奨化の話とか、DSC Core構想とか、なにげに結構いろいろ話題はありました。
さて、Windows PowerShellとしては一端落ち着いた感もある界隈ですが、PowerShell Coreとしてはこれからも活発に動いていくものと思います。注目していきたいですね。
そんな2017年の締めくくり、今年はどんな記事が集まるでしょうか。PowerShell Advent Calendar 2017の参加、お待ちしております。
2016/12/01
2016年のPowerShellを軽く振り返ってみる
この記事はPowerShell Advent Calendar 2016の1日目です。
PowerShellアドベントカレンダー、今年も始まりました。みなさまのご協力の甲斐あって、過去5年間はすべて完走していますが、今回もできれば完走を目指していく感じでまいりましょう。色々な立場の方からの視点でPowerShellを俯瞰できるこのイベント、私自身も毎年楽しんでおります。
さて、去年も2015年のPowerShellをまとめる的な記事から始めたわけですが、今年も去年に負けず劣らず、大変革の年だったと思いますので、今回も1年を振り返るところからスタートしましょう。
Bash on Ubuntu on Windows の登場
去年のPowerShell5.0登場、周辺モジュールのOSS化といった大きな動きがあってから、今年の前半は少しおとなしめ?の界隈でした(5.0のインストーラーにバグがあって一時非公開とか小騒動はありました)が、まず驚いたのがPowerShellそのものではなくて、Windowsで動くbashが登場したというトピックですね。発表があったのは今年の3月末の事です。
bashとは言わずと知れた、Linuxの標準シェルですが、これをWindows 10の"Windows Subsystem for Linux"という仕組みの上で動作するUbuntu上で動作するbashとして動作させてしまおうというものです。なので正式には"Bash on Ubuntu on Windows"という名称になります。
このbash、Windowsのシステムを管理するためのものではなく、Web等の開発用途を想定して提供されたものです。なので本来的にはPowerShellとは関係ないのですが、当初は色々と誤解が飛び交ったように思います。曰く、MSはPowerShellを捨ててやっとbashを採用した。PowerShellとは何だったのか。等々…。
これらの誤解や疑問には、PowerShellの公式ブログで、bashという新たなシェルがWindowsに追加されたが、両者は並立するものだ、PowerShellはこれからも進化するよ!といった異例の公式見解が示されたりもしました。
Bash on Ubuntu on Windowsは、後述するPowerShell 5.1とともに、8月リリースのWindows 10 Anniversary Updateで正式に利用可能となりました。
PowerShell 5.1 の登場
今年7月には、PowerShell 5.1 / WMF (Windows Management Framework 5.1)のプレビュー版が登場しました。[リリースノート]
そもそもPowerShell 5.0はWindows Server 2016のためのシェルとして開発が進められていたはずですが、先にWindows 10に同梱されたものの、2016正式版までやや時間を要すこととなりました。その間にPowerShell 5.0にはいくつかの機能や改良が加えられ、結局、5.1というバージョンが登場するに至ったものと思われます。
PowerShell 5.1は、前述の下位OS用のプレビュー版の他、今年8月初めのWindows 10 Anniversary Updateという大型アップデート適用で使えるようになりました。そしてその後、今年10月に正式版が登場したWindows Server 2016にも(もちろん)同梱されました。
5.1ではローカルユーザーやグループを扱うコマンドレット等が(ようやく?)追加されたりもしています。が、一番大きな変更点は、Windows Server 2016に追加された新機能である、Nano Server用のPowerShellが、従来のPowerShellと分離した点でしょう。
従来の、.NET Frameworkで動くフル機能のPowerShellは、5.1からは"Desktop Edition"と呼ばれます。対して、コンテナに最適化させるため、フットプリントを最小にしたNano Server(や、Windows IoT等)で動作するコンパクトなサブセット、"Core Edition"が新たに登場しました。
Core Editionは、.NET Frameworkのコア部分を実装した、.NET Core上で動作します。ちなみに.NET CoreはOSS(オープンソースソフトウェア)となっています。
Core Editionはサブセット版というだけあって、今となっては若干レガシーにもなった一部のコマンドレットが使えないことを初め、いくつかの制限事項もありますが、概ね、Nano Serverの管理に必要十分な機能を保っているのではないかと個人的には思っています。
PowerShell オープンソース化
今年、PowerShell界をもっとも震撼させたニュース、それは間違いなく、今年8月に実施された、PowerShellのオープンソース化でしょう[GitHub]。周辺モジュールのOSS化など、これまでの流れからいくと、確かに本体OSS化の機運は高まっているように個人的にも感じていましたが、OSS化するとしてもCore Edition部分止まりだろうなーと思っていたら、まさかのDesktop Editionを含んだ全体だったので驚きました。
そしてOSS化の副産物(と個人的には感じる)である、PowerShell on Linux、PowerShell on Macが登場しました。これも一部の方、特にWindowsやMicrosoft製品を普段あまり使われない方に、割と大きなインパクトを与えていたように思います。
PowerShellがオープンソースになったこと、"PowerShell for every system!"になったことの意義についてはちょっと語りつくすには時間が足り無さそうですが、敢えて現実ベースの話を先にすると、一般ユーザー(PowerShellをシステム管理に用いている管理者)にとって、すぐに世界が変化するかというとそうではないんじゃないかという気がしています。
というのも、現在のところOSS版のPowerShellのバージョンは「6.0」とされているものの、まだα版の段階で、基本機能はほぼほぼ5.1と変わらないです。OSS版が改良されても、別に今Windowsで使っているPowerShellがすぐに強くなるわけではありません(現在のところ、サイドバイサイドでインストールする)。オープンソース、マルチプラットフォーム展開を始めたといっても、それは現在の所、PowerShell本体とコアモジュールに留まっていて、コマンド数もたかだか数百個程度でしょう(もうちょっとあるかな?)。PowerShellでOS、サーバー、アプリ、インフラを管理するには、専用のコマンドが山ほど必要になってきますが、それらは今まで通り、Windowsの製品にしか含まれないものです。そのような状況で、たとえばLinuxを管理するのには自分でコマンドを作るか、普通にLinuxのコマンドを呼ぶか…あれそれって別に普通のシェルスクリプトでいいんじゃ…とか。
今後は、OSS側での成果が、Windows / Windows Server上のPowerShellに反映され、両者は一本化される、はず、です、たぶん、が、それはまだアナウンスもなく、いつ、どのような形でもたらされるかは不明と云わざるを得ません。
もちろん、この状況はあくまで現時点の状況です。ゆくゆくはPowerShellで、WindowsもLinuxもMacも一貫したコマンド&スクリプトで管理できる日が来るかもしれませんね。現在のところは、PowerShellの謎挙動に遭遇したとき、ソースを合法的に眺めて思いを馳せることができるようになったのが大きいかと個人的には思います。もちろん腕に覚えのある方は、(ルールに従って)どしどしプルリクエストを投げて、PowerShellを自ら育てていただければな、と思います。
PowerShell 10周年
とまぁ、激動の1年が終わりかけた先日の11/14には、PowerShell 1.0が登場してちょうど10年ということで、PowerShell10周年イベントがあったりしました。思えば遠くへ来たものですね。
さてさて、PowerShellを取り巻く状況は刻一刻と変化し、去年と今年ではその傾向が顕著です。おそらく節目の年である今年の最後を飾ることになる、PowerShell Advent Calendar 2016を、どうぞよろしくお願い致します。
2016/07/11
CLR/H #clrh101「PowerShell の概要と 5.x 新機能のご紹介」資料公開
大変遅くなってすみません。7/2(土)、札幌で開催されたCLR/H #clrh101で行ったセッション、「PowerShell の概要と 5.x 新機能のご紹介」の資料を公開します。
札幌は涼しくて、何もかも美味しくて良かったです。夏の関西は人間の生存に適した気候とはとても言えないので、しばらく札幌に滞在していたかったですね。
さて、登録ページでのタイトルと若干違いますが、間もなく(8/2に)Windows 10 Anniversary Updateの登場とともにPowerShell 5.1の正式版が利用できるようになるということで、今回、5.0に加えて5.1の新機能もご紹介することにしたためです。(スライドは5.1の新機能の部分以外は、基本的にこれまでの内容と同様です。ご容赦ください。)
なお、PowerShell 5.1は現在のところ、Windows 10 Insider PreviewかWindows Server 2016 TP5で試すことができます。
PowerShell 5.0の登場からWindows Server 2016正式リリースまでの期間がけっこう空いたことと、ラピッドリリースの方針もあって、5.1が短期間で登場することとなりました。なのでどれが5.0でどれが5.1の機能かというのは割と曖昧ですけど、5.1で一番大きく変化するところは、PowerShellのエディションがDesktop EditionとCore Editionに分かれるところだと思います。
PowerShell Core Editionは従来のPowerShellのサブセット版となり、Windows Server 2016のインストールオプションの一つで、フットプリントを軽量化し、Windowsコンテナ技術に最適化された、Nano Serverで動作させることを目的として作られました。
Core Editionでは一部のコマンドレットのみのサポートとなりますが、基本的にNano Serverの管理はリモート経由でPowerShellを直接的あるいは間接的に用いて行うことになるため、当然ながら必須のコンポーネントとなります。
なお、PowerShell Core Editionは先日、1.0リリースを迎えたばかりの、.NET Core上で動作します。.NET Coreとは.NET Frameworkのサブセットで、マルチプラットフォームで動作し、OSSとして開発されています。
.NET Framework上で動作する、従来のフルセット版PowerShellも、Desktop Editionとしてこれまで通り利用可能です。
PowerShell 5.0、5.1の新機能はMSDNでまとめられているのでそちらもご参照ください。
Windows 管理フレームワーク (WMF) 5.0 RTM のリリース ノート概要 | MSDN
WMF 5.1 Release Notes (Preview)
追伸。Microsoft MVP for Cloud and Datacenter Managementを7月付で再受賞いたしました。おかげで今回のイベントで「関西MVP3人が集結」という触れ込みが嘘にならなくて良かったです。そして同じ分野でCLR/Hのスタッフでもある素敵なおひげさんも受賞されました。おめでとうございます。
2016/04/23
第 6 回 PowerShell 勉強会「PowerShell 5.0 新機能と関連OSSのご紹介」資料公開
Japan PowerShell User Group (JPPOSH) 主催の第 6 回 PowerShell 勉強会(4/9)には多数の方にお越しいただき、ありがとうございました。
PowerShell勉強会は今後も年2回くらいのペースで続けて行きたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。
さて、私のセッション「PowerShell 5.0 新機能と関連OSSのご紹介」のスライドを公開します。前半は以前のものとだいたい同じですが、正式版対応版にアップデートしています。
今回は去年から今年にかけて、PowerShell関連ソフトウェアとしてOSS化したものを、まとめて紹介しました。以下は今回紹介したもののリストです。
- WMFやWindowsの標準機能として取り込まれたもの
- PackageManagement / PowerShellGet (WMF5)
- TabExpansion++(WMF5)
- PSReadline(Win10, Server 2016)
- Pester(Win10 , Server 2016)
- 追加してインストール可能なもの
またデモで用いたサンプルファイルも公開します。
このzipにも同梱してますが、PSScriptAnalyzerのカスタムルールはこんな感じで作ります。作り方は、ASTを受け取って、中身をチェックして、ルールに該当するならDiagnosticRecordを返すというのが基本になります。
using namespace Microsoft.Windows.PowerShell.ScriptAnalyzer.Generic using namespace System.Management.Automation.Language Import-Module PSScriptAnalyzer function Test-UsingVarsWithNonAsciiCharacter { # 変数に半角英数字以外の文字種が含まれていると警告するカスタムルール。 [CmdletBinding()] [OutputType([DiagnosticRecord[]])] Param ( [Parameter(Mandatory = $true)] [ValidateNotNullOrEmpty()] [ScriptBlockAst] $ScriptBlockAst ) Process { [Ast[]]$variableAsts = $ScriptBlockAst.FindAll({ param([Ast]$ast) $ast -is [VariableExpressionAst] }, $true) $variableAsts | where { $_.VariablePath.UserPath -notmatch '^[a-zA-z0-9_]+$' }| foreach { $result = [DiagnosticRecord[]]@{ "Message" = "変数 `$$($_.VariablePath.UserPath) に半角英数字以外の文字種が使われています。" "Extent" = $_.Extent "RuleName" = "AvoidUsingVarsWithNonAsciiCharacter" "Severity" = "Warning" } $result } } } Export-ModuleMember Test-UsingVarsWithNonAsciiCharacter
ついでにPesterのサンプルコードも。2つのパラメータを足し算する関数、Invoke-Additionに対するテストコードの例となります。
$here = Split-Path -Parent $MyInvocation.MyCommand.Path $sut = (Split-Path -Leaf $MyInvocation.MyCommand.Path) -replace '\.Tests\.', '.' . "$here\$sut" Describe "Invoke-Addition" { # テストの定義 Context "足し算の実行" { # テストのグループ化 It "整数値を2個指定すると、足し算された結果が返る" { # テストケース Invoke-Addition 3 5 | Should Be 8 # アサーション } It "小数値を2個指定すると、足し算された結果が返る" { Invoke-Addition 3.4 5.8 | Should Be 9.2 } } Context "エラーの発生" { It "足し算できないものを指定するとエラー" { {Invoke-Addition 10 "x"} | Should Throw } } }
2016/01/03
パイプラインの処理を途中で打ち切る方法
PowerShellのパイプライン処理
まず、PowerShellのパイプライン処理について軽くおさらいします。
例えば、@、A、Bをそれぞれ何らかのコマンドとしたとき、
@|A|B
というパイプラインがあったら、処理の流れは、
@begin→Abegin→Bbegin→(@process→Aprocess→Bprocess→)×n→@end→Aend→Bend
の順に実行されます。(processブロックで「1入力に対し1出力する」場合以外は必ずしもこうならないですが)
さて、AかBのprocessブロック実行中に、何らかの条件を満たした時、パイプラインのprocessの後続処理を打ち切りたい場合はどうすれば良いでしょうか。
まずはbreakを使った駄目な例
ネットでよく見かける以下のようなコード、すなわち「パイプラインはbreakで処理を打ち切ることができる」というのは実は正しくないのです。
function Select-WhileTest { [CmdletBinding()] param ( [parameter(ValueFromPipeline=$true)] [psobject[]]$InputObject, [parameter(Position=0)] [scriptblock]$Predicate ) process { if(!(&$Predicate)) { break } $InputObject } }
このコードはv2までではそもそも正しく動作しませんが、v3以降では条件によっては正しく動作しているように見えるのが、誤解の元なのかと思います。(というか私も誤解してました。)
例えば、
$result = "初期値" $result = &{end{foreach($i in (1..5)){$i}}} | Select-WhileTest {$_ -lt 3} Write-Host "`$resultは $result です。"
のようにすると、
$resultは 1 2 です。
のように、想定した通りの結果が得られます。このように、上流のスクリプトブロックのendブロック内にforeachなどループブロックが存在し、そのループブロック内で下流に値を出力している場合はうまくいきます。(ちなみに、スクリプトブロック直下に記述するのとendブロック内に記述するのは等価。)
しかし、上流にループブロックがない場合、例えば
$result = "初期値" $result = 1..5 | Select-WhileTest {$_ -lt 3} Write-Host "`$resultは $result です。"
とすると、コンソールに1と2が改行区切りで表示されますが、ホストに表示されるだけで$resultには値は格納されません。そしてスクリプト化して実行した場合は、Write-Hostが実行されることすらなく、スクリプトが終了してしまいます。
breakだとなぜうまくいかないのか
結局どういうことかというと、パイプライン下流のbreakは、パイプラインを打ち切る処理をするのではなく、単に一つ上流のブロックをbreakする処理に過ぎないのです。
パイプライン上流にループブロックがある場合は、そのループブロックをbreakしますが、それ以外の場合はスクリプトのbegin, process, endのいずれかのブロックがbreakされてしまい、結果としてスクリプトが終了してしまうわけですね。
そして、このSelect-WhileTest関数だと大丈夫ですが、processブロックの中にループブロックを記述し、その中でbreakを書くのは当然ダメです。単にそのループを抜けるだけなので、上流の出力は止まってくれません。
breakではなくcontinueを使う場合も基本は同じ結果です。しかもcontinueは所詮、その名の通り継続処理なので、上流に以下のような無限リストがあると無限ループに陥ってしまいます。
&{begin{$i = 0} process{while($true){$i++; $i}}}|Select-WhileTest {$_ -lt 3}
breakの代わりに、
throw (New-Object System.Management.Automation.PipelineStoppedException)
を実行する方法も見かけますが、これはループブロックがあっても強制的にスクリプトが終了するので余計ダメです。try...catchでエラートラップすればスクリプトの終了は回避できますが、「パイプラインが正常終了せずエラーを出した」扱いであることには代わりないので、やはり出力を変数に格納することができません。
ダミーループを用いる、取りあえずの解決策
前述のbreakを使った方法の問題点のうち、上流にループブロックがないとスクリプトが終了してしまい、出力を変数に代入することもできない問題は、とりあえず解決する方法があります。
以下のように、呼び出す時にパイプライン全体をダミーのループブロックでラップすれば良いのです。
$result = "初期値" $result = do{ 1..5 | Select-WhileTest {$_ -lt 3} }until($true) Write-Host "`$resultは $result です。"
このようにしておけば、breakはパイプラインの外側のdo...untilを抜ける効果になるので、スクリプトが終了する心配も、値を出力しない問題も起こりません。
元々、パイプライン上流にループブロックが存在する場合でも、単にdoループ内の処理が1回走るだけなので、特に問題は起きません。1回だけ処理を実行するダミーループなら、for($i=0; $i -lt 1; $i++){}とかでも良いです。
ただ…この記述を美しいと思う人は多分いないですね。事情を知らないと意味不明ですし。そして、breakを記述する側の関数には、前述の通りのループブロック内では値を出力できないという制限は残ったままになります。
やはりbreakでパイプラインを打ち切るのは、本来想定された動作かと言われるとかなり微妙なところだと思います。(v3で一応動くようになったとはいえ)
この方法についての参考記事:Cancelling a Pipeline - Dreaming in PowerShell - PowerShell.com ? PowerShell Scripts, Tips, Forums, and Resources (ただしv2準拠の内容であることに注意)
ところで、Select-Object -Firstは…
さて、話は変わって、PowerShell 3.0からはSelect-Object -First の処理が変わったことについては、ご存知の方も多いかと思います。
具体的には、v2までは単にパイプライン処理をすべて終了してから、最初のn件を抽出する処理であったn件のパイプライン出力がされた後は、入力をすべてフィルタし出力に流さなくなる動作であったところが、v3からはn件のパイプライン出力がされた時点で、パイプラインの処理を打ち切るようになりました。(1/5修正)
つまり、
$result = 1..5| &{process{Write-Host "Process:$_"; $_}}| Select-Object -First 2 Write-Host "`$resultは $result です。"
というスクリプトは、v2までは
Process:1 Process:2 Process:3 Process:4 Process:5 $resultは 1 2 です。
のようにパイプライン出力は指示通り2件であるものの、上流の処理は結局、全部実行されてしまっています。
一方v3以降では、
Process:1 Process:2 $resultは 1 2 です。
のように、きちんと上流の処理を打ち切ってくれています。
つまり、ここまで述べてきたパイプライン処理の打ち切りは、実はv3以降のSelect-Object -Firstでは実現できているということです。これと同じことを我々も自作関数の中でやりたいわけです。
ではSelect-Object -Firstは具体的にどういう処理をしているかというと、StopUpstreamCommandsExceptionという例外をthrowすることでパイプライン処理の打ち切りを実現しています。この例外はまさに名前の通り、パイプライン上流の処理を中止するための例外です。この例外を自作関数でthrowしてやればうまくいきそうです。
しかし、この例外は非publicな例外クラスであることから、New-Objectコマンドレットなどでインスタンス化することはできません。リフレクションを駆使する必要がでてきます。
参考:PowerShell 3.0からはじめるTakeWhile - めらんこーど地階
(1/5追記)参考2:パイプラインの処理を途中で打ち切る方法のPowerShell版 - tech.guitarrapc.cóm(Add-TypeでC#経由でリフレクションしてます。)
頑張ればできなくはないですが、もっと楽な方法はないものか…と思ってあきらめかけたところ、いい方法を思いついたので紹介します。
Select-Object -Firstを利用する方法
Select-Object -Firstでできることが我々には(簡単には)できない。ならばどうするか。Select-Object -Firstを使えばいいじゃない。という発想です。
function Select-While { [CmdletBinding()] param ( [parameter(ValueFromPipeline=$true)] [psobject[]]$InputObject, [parameter(Position=0)] [scriptblock]$Predicate ) begin { $steppablePipeline = {Select-Object -First 1}.GetSteppablePipeline() $steppablePipeline.Begin($true) } process { if(!(&$Predicate)) { $steppablePipeline.Process($InputObject) } $InputObject } end { $steppablePipeline.End() } }
scriptblockにはGetSteppablePipelineというメソッドが存在し、このメソッドによりSteppablePipelineオブジェクトが取得できます。これは何かというと、要は「スクリプトブロック内のbegin, process, endを個別に実行する」ための機能です。
参考:PowerShell: ◆パイプライン入力・パラメータ入力対応のGridView出力関数を作る(私自身も以前この記事で知りました。)
{Select-Object -First 1}というスクリプトブロックは、1回目に実行するprocessブロック内でStopUpstreamCommandsExceptionを出してくれます。
よって、自作関数のprocessブロック内のパイプライン処理を打ち切りたい箇所で、SteppablePipelineオブジェクトのProcessメソッドを使うことで、{Select-Object -First 1}のprocessブロックの処理を呼び出してやればいいわけです。
このようにして作成したSelect-While関数を以下のように実行してみると、
# 上流にループあり $result1 = &{end{foreach($i in (1..5)){$i}}} | Select-WhileTest {$_ -lt 2} Write-Host "`$result1は $result1 です。" # 上流にループなし $result2 = 1..5 | Select-While {$_ -lt 3} Write-Host "`$result2は $result2 です。" # 上流に無限リスト $result3 = &{begin{$i = 0} process{while($true){$i++; $i}}} | Select-While {$_ -lt 4} Write-Host "`$result3は $result3 です。"
結果は
$result1は 1 です。 $result2は 1 2 です。 $result3は 1 2 3 です。
となり、少なくとも今まで述べてきた諸問題はすべて解消していることが分かると思います。
このSelect-While関数は、スクリプトブロックで指定した条件を満たさなくなったときに、パイプライン処理を打ち切ってくれるものですが、この「Steppable Select -First 方式」を使えば他の自作関数でも、割と気楽に呼べるんじゃないかなと思います。ループブロック内で呼び出すことももちろん可能です。
ただし問題点はある
これはSelect-Object -FirstというかStopUpstreamCommandsExceptionあるいはPowerShellのパイプライン機構の仕様に由来する問題であると思われるので、どうにもならないことではあるんですが、一点だけ注意事項があります。
$result = 1..5| &{ begin { Write-Host "Begin" } process { Write-Host "Process:$_" $_ } end { Write-Host "End" } }| Select-While {$_ -lt 2} Write-Host "`$resultは $result です。"
これの結果は
Begin Process:1 Process:2 $resultは 1 です。
となり、なんとendブロックが実行されていません。Select-While {$_ -lt 2} の代わりに Select-Object -Firstを使っても、同様にendは実行されません。
つまり、StopUpstreamCommandsExceptionというのはパイプライン処理を打ち切って、そこまでの出力値を正しくパイプライン出力として出してくれますが、やってくれるのはそこまでで、最後のendブロック処理はしてくれません。
これは十分注意が必要な点で、自作関数内でbeginブロックで確保したリソースをprocessブロックで利用して、endブロックで解放する…という、いかにも書いてしまいそうなパターンは、実はNGなんですね。何も上のようにマニアックなことをしなくても、単に下流でSelect-Object -Firstを使うだけでアウトです。
じゃあ、リソースの取り回しはどうするのが良いの、って話もありますが、それはまたの機会にしましょう。
(1/5追記)あえとすさんの記事が参考になります。:パイプライン処理の後始末をしよう - 鷲ノ巣 ただ、この方法ではパイプライン下流でthrowされた場合はトラップできないぽいですね。コマンドレットクラスの場合はIDisposable実装で良さそうです。
ここからは私見ですが、StopUpstreamCommandsExceptionが後付けかつ非パブリックなところとか、パイプラインを合法的に脱出するステートメントが今に至るまで用意されていないところとか、パイプラインを何とかして途中で打ち切っても、endは実行されないところとかを見ていると、そもそもPowerShellではパイプライン処理の中断というのは、あまり想定してない操作なのかなぁ、という気がしてきています。
上記のような裏技を使って回避するのも一案ではあるとは思いますが、そもそも「パイプライン処理の中断はイレギュラー」と考えて、そういう処理は避けて、必要に応じて別のアプローチを取ることも考えた方がいいのかもしれません。
2015/12/01
2015年のPowerShellを軽く振り返ってみる
この記事はPowerShell Advent Calendar 2015の1日目です。
アドベントカレンダーは今年で5回目ですが、例年よりだいぶ参加者が少ないので、敢えて完走を目指さずまったりいきましょう。
とはいえ今年から来年にかけては、PowerShellの変革の年といっても過言ではないかと思います。
今年7月にはWindows 10のリリースとともに、WMF (Windows Management Framework) 5.0 / PowerShell 5.0 (2012R2/8.1向けにはProduction Preview)が登場しました。(私の書いたPS5.0新機能のセッション資料はこちら。)
PowerShell 5.0では特に、"Infrastructure as Code"、すなわちインフラの構成をコードで記述可能にし自動化するための機能である、PowerShell DSC周りが格段にパワーアップしています。DSCの機能増強により、Microsoft Azure等のクラウド、オンプレミスのサーバーはともに大きな恩恵を受けることが期待されます。Azure DSC Extensionも追従する形で凄まじい勢いでバージョンアップしてますね。
PowerShell 5.0の登場に合わせて、各種のPowerShell関係のモジュールやアプリケーションが新登場していますが、これらはいずれもOSS(オープンソースソフトウェア)となりました。
一例を挙げると、DSCで用いるロジック本体となる「DSCリソース」を作製する際に有用なDSCリソースキット、対応リポジトリをプロバイダという形で拡張可能であるパッケージ管理システムPackageManagement、PowerShellモジュールを専用リポジトリであるPowerShell Galleryからコマンド1発で取得可能となるPowerShellGet、PowerShellスクリプトの静的解析を行うスクリプトアナライザー、Windowsのみならず他プラットフォームの一括管理を目指すDSC for Linux等々です。
先日OSS化したばかりの、マルチプラットフォーム対応のコードエディタであるVisual Studio Codeと、PowerShellスクリプトが記述可能となるPowerShell Extensionあたりもトピックとして熱いですね。
Visual Studio 2015には、VSでPowerShellスクリプト開発を行うためのOSSなプラグインであるPowerShell Tools for Visual Studioが標準搭載されたことも記憶に新しいですね。(12/1追記)
逆に、PowerShellのテストスクリプトを記述するためのフレームワーク(DSL)であるPesterや、コンソールの入出力をパワーアップさせるPSReadlineといった、OSSで開発されている既存のPowerShellモジュールが、Windows 10に標準機能として取り込まれるなど、OSSとの関係性については大きく変化したと言えるでしょう。
そして次期Windows Serverである、Windows Server 2016の足音も聞こえてきました。現在はTP4が公開されており、試すことができます。Windows Server 2016の目玉は何といっても、Windows ContainersとNano Serverでしょう。
アプリケーションをコンテナという単位で配置し、自由なすげ替え、あるいは使い捨てが可能な環境を構築するツールであるDockerというOSSに対し、インターフェースの互換性を持たせたWindows版コンテナがWindows Containersです。
そして、コンテナ機能を最大限に活用するためにフットプリントの最小化を目指し、GUIどころかコンソールすら廃した新しいWindows Serverの形態が、Nano Serverです。
Windows ContainersとNano Serverの管理は当然、PowerShellがメインとなります。また、ようやくWindowsにやってくる、SSHクライアントとサーバーはPowerShell上で動くようです。
PowerShellは5.0に進化することで、足回りを強化しました。そして各種OSSと連携して、クラウドとオンプレミスのサーバー群の基礎を支える存在として、ますます重要性を帯びていくことでしょう。
昨今のPowerShellを取り巻く状況は、私の理解ではざっとこんな感じです。この中に興味を持たれたテーマはありませんか? もちろん、新機能以外にも、まだまだ知られていない機能や利用法も埋もれていると思います。
もしそんなテーマがあったら、PowerShell Advent Calendar 2015で共有していただければ嬉しいなあと思います。
というわけで、例年にない感じの初日記事を書いてみました。今回のアドベントカレンダーもどうぞよろしくおねがいします。
2015/09/07
本当は怖いPowerShell その2 コマンド名の"Get-"補完
Twitterでこんな問題を出してみました。
PowerShell検定中級編。以下を実行するとそれぞれ何が起こるか。 @ &{} A &{process} B &{process{}} C &{process{process}} D &{process{process{}}}
? 牟田口大介 (@mutaguchi) September 7, 2015
以下、解答になります。
@ &{}
結果
何も出力されません。
解説
空のスクリプトブロック{}を実行演算子&で実行しています。空なので何も出力はありません。
A &{process}
結果
「'process' の後にステートメント ブロックがありません。」というパーサーのエラーになります。
解説
PowerShellのスクリプトブロックは、beginブロック、processブロック、endブロックを内包します。スクリプトブロック直下にparamブロック、DynamicParamブロック、beginブロック、processブロック、endブロック(他にもあったかも)以外のステートメントを記述すると、Endブロック内に記述されたものと暗黙的に解釈されます。
この場合、スクリプトブロック直下にprocess…と書き始めたので、パーサーはprocessブロックが開始されたと判断しますが、続くステートメントブロック{}(≠スクリプトブロック)の記述がないため、構文エラーとなります。
B &{process{}}
結果
何も出力されません。
解説
パーサーはAのように解釈しますが、今回はステートメントブロック{}がきちんと記述されているので、エラーなく解釈されます。
processブロックは、パイプライン入力がない場合でも1回実行されますが、この場合、中身は空なので、@と同様、何も出力はありません。
C &{process{process}}
結果
Get-Processコマンドレットが実行され、プロセス一覧が表示されます。
解説
・パーサーの挙動
Bまでの解説の通り、&{process{…}}とすると、…の部分が1回実行されます。今回はprocessブロック内に「process」と記述しているので、Aのようなパーサーエラーは発生せず、「process」がステートメントとして実行されます。
さて、PowerShellのステートメント(文)には「For」とか「If」とかと並列して、「パイプライン」が存在します。「パイプライン」には1つの「式」もしくは複数の「コマンド」が含まれます。
たとえば、「Get-ChildItem | Select-Object Name」というパイプラインには「Get-ChildItem」と「Select-Object Name」という2つのコマンドが含まれます。
(ちなみに、「式」とは「$x+1」とかの、値を返すもののことです。PowerShellではパイプラインの最初の要素にのみ、「コマンド」ではなく「式」を記述することができます。)
今回のお題では、「process」はprocessブロック下に記述されており、ForやIf等のステートメントではないのでパイプラインとして扱われます。このパイプラインには1つの要素のみ含まれていますが、式ではないので、コマンドとして解釈されます。
・コマンド探索の挙動
PowerShellの「コマンド」は、関数、コマンドレット、ワークフロー、Configuration、ファイル(実行ファイル、スクリプトファイルを含む)、&演算子で実行するスクリプトブロック等が挙げられます。
コマンドの探索は、まずコマンドへのエイリアスを探します。ない場合は、関数名orコマンドレット名を探します。それでもない場合は、実行ファイルやスクリプトファイルの拡張子(.exe、.ps1等)を付与してパスの通ったディレクトリを探します(ちなみにカレントディレクトリにあったとしても、相対パスor絶対パス表記でない場合は実行しません)。
さて、ここからが「本当は怖い」ところなんですが、ここまで探索してコマンドがなかった場合、与えられたコマンド名に"Get-"を付与してもう一度探索します。
今回のお題では、processという名前のコマンドを探して、もしパスが通ったフォルダにprocess.exeとかがあればそれが実行されますが、ない場合はGet-Processというコマンド名を探します。
もちろん、Get-Processというコマンドレットは標準で存在するので、それが実行されてしまう、というわけでした。
(ちなみにPowerShell 3.0以降なら、Get-付与で見つからない場合、さらにCmdlet Auto Discoveryにより未ロードのモジュールを探します。)
コマンド探索の詳細な挙動は、Trace-Command -Expression {コマンド} -Name CommandDiscovery -PSHost とすると調べられるので、見てみるのもいいかもしれません。
D &{process{process{}}}
結果
「Get-Process : パラメーター 'Name' を評価できません。その引数がスクリプト ブロックとして指定され、入力が存在しないためです。スクリプト ブロックは、入力を使用せずに評価できません。」というParameterBindingExceptionが発生します。
解説
・パーサーの挙動
Get-Processが実行され(ようとす)る理由についてはCまでの理解でOKでしょう。
さて、Get-Processコマンドレットには-Nameという、プロセス名を指定する位置パラメータが存在します。位置パラメータは、パラメータ名を指定せずパラメータ値のみを指定しても、指定順にパラメータにバインドしてくれる機能を持ちます。
たとえば、Get-Process powershell とすると、「Get-Process -Name powershell」が実行されます。
今回のお題「process{}」は、パーサーによってまず、コマンド名「process」と、パラメータ値「{}」(空のスクリプトブロック)に分割されます。
(ちなみにコマンド名に「{}」を含めることができないわけではなく、そういうコマンドを実行したい場合は、`でエスケープするか、&"command{}name"のように&演算子を用いれば可能です。)
今回の場合、パラメータ名の指定はありませんが、位置パラメータ-Nameに空のスクリプトブロックがバインドされることになるわけです。
・コマンドパラメータバインドの挙動
さて、-Nameパラメータの型は、System.String[]であり、scriptblockではありません。もちろんscriptblockからSystem.String[]への暗黙の型変換はありません。でもエラーメッセージ的には、スクリプトブロックを与えたこと自体は咎めていないように思えますね。
実はこれ、スクリプトブロックパラメータと呼ばれてる機能です。詳しくはスクリプトブロックパラメータのススメを見ていただくとして、要はコマンドへのパイプライン入力を、指定のスクリプトブロックで処理し、その出力結果をパラメータ値としてバインドする機能ですね。
今回エラーになった理由は、スクリプトブロックパラメータとして解釈しようとしたが、そもそも入力がなかったから、ということになります。
あまり意味はないですが、以下のように入力を与えてやれば、スクリプトブロックパラメータとして動作します。
"powershell" | Get-Process -Name {$_}
この場合パイプライン入力が追加されるので、-Nameパラメータの指定位置がずれることになるので、パラメータ名が必要になります。また、スクリプトブロックが空だと、「パラメーター 'Name' を評価できません。その引数の入力によって出力が作成されなかったためです。」というエラーをご丁寧に出してくれます。Trace-CommandでParameterBindingソースをトレースしてみるのも一興でしょう。
ちなみにあまり関係ない余談ですが、-NameパラメータにはValueFromPipelineByPropertyName属性が付いているので、実は以下のような指定もできます。
[PSCustomObject]@{Name="PowerShell"} | Get-Process
まとめ
PowerShellパーサーと飲むとき、話の肴にどうですかね。
See also: 本当は怖いPowerShell その1
2015/02/15
オープンセミナー広島2015「PowerShell DSCによるインフラ構成管理の自動化手法について」資料公開
オープンセミナー2015@広島で行った私のセッションのスライドを公開します。
今回のイベントではWindowsサーバーにかかわっている方が少ない感じでしたが、PowerShellとDSCを核とした、最近のMicrosoftやWindowsのインフラ周りってどうなん?という話が伝えられていたなら幸いです。
.NET Frameworkのオープンソース化が記憶に新しい所ですが、サーバー系でもOneGet、DSC for Linux等、Microsoftが関わるオープンソースのプロダクトも増えてきました。またAzure上で顕著な動きですが、Chef、Docker等の既存のOSSの積極的な採用も進んでいます。
このような状況ですので、かつてはMicrosoft系コミュニティとオープンソース系コミュニティでは何となく交流が薄かったと思うんですが、今後はより一層、両者の交流が盛んになっていくんじゃないかなあと個人的には思っています。
2014/12/24
PowerShellで位置情報を取得する
はじめに
この記事はPowerShell Advent Calendar 2014の24日目の記事です。
今回は、Windows 8から追加されたOSの機能である、「Windows 位置情報プラットフォーム」をPowerShellから呼び出して、位置情報(緯度、経度)を取得してみよう、という話になります。
Windows 位置情報プラットフォームとは
Windows 8から、「Windows 位置情報プラットフォーム」という機能が追加され、アプリケーションから現在位置情報(緯度、経度など)をAPIで取得できるようになっています。
Windows 位置情報プラットフォームでは、位置情報をGPSがあればGPSから、なければWi-Fiの位置情報あるいはIPアドレスなどから推定して取得します。すなわち、GPSがない場合でも位置情報を取得できる、いわば仮想GPSの機能がデフォルトで備わっているのがミソです。
(注:Windows 7にも「Windows センサー&ロケーションプラットフォーム」というのがありましたが、OSデフォルト機能としては仮想GPSはありませんでした。今は亡き、Geosense for Windowsというサードパーティー製アプリを追加すると仮想GPS使えたんですけどもね。あとWindows Phone?知らない子ですね…)
PowerShellでWindows 位置情報プラットフォームを利用する
さて、Windows 位置情報プラットフォームをPowerShellで使うには、.NET4.0以上に含まれている、System.Device.Location名前空間配下に含まれるクラスの機能を用います。アセンブリ名としてはSystem.Deviceとなります。
以下のような関数Get-GeoCoordinateを定義します。
Add-Type -AssemblyName System.Device function Get-GeoCoordinate { param( [double]$Latitude, [double]$Longitude ) if(0 -eq $Latitude -and 0 -eq $Longitude) { $watcher = New-Object System.Device.Location.GeoCoordinateWatcher $sourceId = "Location" $job = Register-ObjectEvent -InputObject $watcher -EventName PositionChanged -SourceIdentifier $sourceId $watcher.Start() $event = Wait-Event $sourceId $event.SourceEventArgs.Position.Location Remove-Event $sourceId Unregister-Event $sourceId } else { New-Object System.Device.Location.GeoCoordinate $Latitude,$Longitude } }
関数実行前に、まずAdd-Type -AssemblyName System.Deviceを実行して必要なアセンブリをロードする必要があります。
関数本体ではまず、System.Device.Location.GeoCoordinateWatcherオブジェクトを生成します。このオブジェクトのStartメソッドを実行すると、Windows 位置情報プラットフォームにアクセスして、位置情報の変化を監視します。位置情報の変化を感知すると、PositionChangedイベントが発生し、取得した位置情報を、イベントハンドラの引数にGeoPositionChangedEventArgs<T>オブジェクトとして返します。
さて、PowerShellでは、.NETクラスのイベントを取得するには、Register-ObjectEventコマンドレットを用い、イベントを「購読」します。
イベントが発生するたびに何かの動作をする、というような場合では、Register-ObjectEvent -Action {処理内容}のようにして、イベントハンドラを記述するのが一般的です。が、今回は位置情報の変化の最初の一回(つまり、初期値の取得)さえPositionChangedイベントを捕まえればOKなので、-Actionは使用しません。
代わりにWait-Eventコマンドレットを用い、初回のイベント発生を待機するようにしています。Wait-Eventコマンドレットは、当該イベントを示すPSEventArgsオブジェクトを出力します。
PSEventArgsオブジェクトのSourceEventArgsプロパティには、当該イベントのイベントハンドラ引数の値(ここではGeoPositionChangedEventArgs<T>オブジェクト)が格納されているので、あとはそこから.Position.Locationと辿ることで、位置情報を格納したGeoCoordinateオブジェクトが取得できます。
(注:あとで知ったんですけど、GeoCoordinateWatcherクラスには、同期的に位置情報を取得するTryStartメソッドというのがあって、これを使えばイベント購読は実は不要でした…まぁいっか)
なお、関数のパラメータとしてLatitude(緯度)、Longitude(経度)を指定すると、現在位置ではなく、指定の位置を格納したGeoCoordinateオブジェクトを生成するようにしています。
Get-GeoCoordinate関数の使い方
事前にコントロール パネルの「位置情報の設定」で「Windows 位置情報プラットフォームを有効にする」にチェックを入れておきます。
あとはGet-GeoCoordinateをそのまま実行するだけです。
Latitude : 34.799999 Longitude : 135.350006 Altitude : 0 HorizontalAccuracy : 32000 VerticalAccuracy : NaN (非数値) Speed : NaN (非数値) Course : NaN (非数値) IsUnknown : False
このように現在位置が表示されるかと思います。といっても、緯度、経度が表示されたところでちゃんと取得できてるのかよく分からないので、以下のような簡単な関数(フィルタ)を定義しておきます。
filter Show-GoogleMap { Start-Process "http://maps.google.com/maps?q=$($_.Latitude),$($_.Longitude)" }
このフィルタを使うと、指定の緯度経度周辺の地図を、標準のWebブラウザで開いたGoogleマップ上に表示してくれます。使い方はこんな感じ。
Get-GeoCoordinate | Show-GoogleMap
現在位置が表示されましたでしょうか? 位置測定に用いたソースによってはkmオーダーでズレると思いますが、それでも何となく、自分がいる場所が表示されるのではないかと思います。
なお、先ほども書いたように、パラメータで任意の緯度、経度を指定することも可能です。この関数だけではあんまり意味を成しませんが…
Get-GeoCoordinate 35.681382 139.766084
まとめ
PowerShellでも「Windows 位置情報プラットフォーム」を使って現在位置が取れるよ、という話でした。あんまりPowerShellでSystem.Device.Locationとかを使っているサンプルを見かけないので、何かの参考になれば幸いです。あとPowerShellでのイベントの扱い方についても復習になるかと。
ところでこうやって取得した位置情報を使って、Web APIを呼び出して活用しよう、というようなネタを書くつもりだったんですが、長くなったんでまたの機会としましょう。ではでは。
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