2012/12/25
独自型に書式を設定する [PS Advent Calendar '12]
本記事はPowerShell Advent Calendar 2012、最終日の記事です。
前回はAdd-Typeコマンドレットを使って独自のクラスを作成し、そのクラスを入力あるいは出力型に取る関数をどのように記述すれば良いのか、というお話でした。
今回は前回に残した課題である、ユーザー定義の独自型の出力にちゃんとした書式を設定する方法について説明していきます。
型データと書式設定データ
PowerShellは.NETオブジェクト(に限らず、型アダプタが存在するCOMやXMLなども、ですが…)をラッピングした型システムを有しているわけですが、このラッピング時にオブジェクトに対してPowerShell独自のデータを付与することができます。それが型データと書式設定データと呼ばれるものです。
型データはクラスにPowerShellエンジンが付加する独自のメンバ(プロパティ、メソッド)です。代表的なものにNoteProperty(静的な値をもつプロパティ), ScriptProperty(スクリプトで記述されたgetterとsetterをもつプロパティ), AliasProperty(既存プロパティのエイリアス), CodeProperty(.NETのスタティックプロパティ), CodeMethod(.NETのスタティックメソッド), ScriptMethod(スクリプトで記述されたメソッド)があります。
型データは .types.ps1xmlファイルにその定義を記述し、モジュールならモジュールマニフェスト(.psd1)のTypesToProcessプロパティに型データファイルパスを指定することで、インポート時に型データを反映させることができます。
Update-TypeDataコマンドレットで後から型データファイルを読み込んで反映することもできます。PowerShell 3.0ではUpdate-TypeDataコマンドレットで.types.ps1xmlファイルを読むのではなく、直接任意のメンバを任意の型に追加することも可能になっています。
また、
$obj | Get-Member -View Extended
とすることで$objに追加されたメンバがどれなのかが分かります。(ちなみに型アダプタによって追加されたメンバはAdapted指定で分かります)
今回の記事では型データについてはこれくらいにして(またいつか改めて取り上げたいですが)、以下、本題の書式設定データの話をしていきます。
書式設定データとは
書式設定データも型データと同様、クラスに付加するデータなのですが、これはオブジェクトを出力する際のデフォルトの表示フォーマットを定義するものとなります。
たとえばGet-Processコマンドレットを実行すると
Handles NPM(K) PM(K) WS(K) VM(M) CPU(s) Id ProcessName ------- ------ ----- ----- ----- ------ -- ----------- 138 13 18456 7104 62 2052 aaHMSvc 88 8 2168 1268 55 2112 AdminService ...
のようにProcessオブジェクトが表形式で表示されます。
ここで表に含まれるプロパティ、IdとProcessNameは.NETのProcessクラスが持つオリジナルのプロパティで、HandlesはHandleCountプロパティのAliasPropertyです。NPMやWSなども対応するAliasPropertyやScriptPropertyが定義されているのですが、たとえばNPMというAliasPropertyはあってもNPM(K)というメンバはありません。これを定義しているのが書式設定データになるわけです。そもそもこの表に含まれるプロパティの種類であるとか、もっというとProcessオブジェクトは特に指定がない場合は表形式で表示する、といった定義も書式設定データに含まれます。
書式設定データも型データと同様にXMLファイルに定義されるのですが、その拡張子は.format.ps1xmlです。モジュールならマニフェストのFormatsToProcessプロパティに.format.ps1xmlファイルのパスを指定することで表示に反映されますし、Update-FormatDataコマンドレットによって後から反映させることも可能です。
この書式設定ファイルはユーザー定義型に関しても定義を記述できます。つまり、ユーザー定義型に対応する.format.ps1xmlファイルを記述し、それを読み込むことで、自分がAdd-Typeで作った型に対しても書式を設定できるわけです。次の節でそのやり方を見ていきましょう。
書式設定データの作り方
書式設定データ.format.ps1xmlの書式についてはMSDNにリファレンスがあるので、これを読めば自分で一から作成することは可能です。ですがそれはちょっと面倒くさいので、既存の書式設定データをベースに、独自型用に修正していくのがお勧めです。
書式設定データはGet-FormatDataコマンドレットで取得でき、Export-FormatDataコマンドレットでファイルとして出力できます。なお、Export-FormatDataコマンドレットの出力XMLファイルは改行コードが入っていなくて見づらいので、XmlDocumentとして再度読み込んでSave()するという小細工を施すのがお勧めです。先ほどのProcessクラス(System.Diagnostics.Process)の書式設定データをファイル化するには以下のようなスクリプトを実行します。
$ps1xml="process.format.ps1xml" Get-FormatData System.Diagnostics.Process | Export-FormatData -Path $ps1xml -IncludeScriptBlock ([xml](Get-Content $ps1xml)).Save((Join-Path (Get-Location) $ps1xml))
このスクリプトを実行すると、Processクラスの書式設定データをprocess.format.ps1xmlファイルとして出力できます。
出力した.format.ps1xmlはPowerShell ISE(ただしv3の)で開くのがお勧めです。ちゃんとXMLノードを折りたたみできるので。
さて、出力した.format.ps1xmlファイルをつらつらと眺めると、実際の出力書式の定義はビュー(View)という単位で行われていることがわかります。View要素の下にはName要素(ビューの名前)、ViewSelectedBy要素(ビューを反映する対象の型)、TableControl要素(表の書式)があります。
TableControl要素の下にはTableHeaders要素とTableRowEntries要素が含まれており、前者は表のヘッダーに記載するラベルやその幅などをTableColumnHeader要素に一つ一つ定義し、後者は表の本体に表示するオブジェクトのプロパティ値をTableColumnItem要素に一つ一つ定義しています。
TableColumnItem要素は単純にプロパティ値を表示させるならPropertyName要素にプロパティ名を書くだけでOKです。スクリプトの結果を表示させるならScriptBlock要素内にスクリプトを書きます。ScriptBlock要素内で自動変数$_に1オブジェクトが格納されています。
結局のところ、表に表示したいプロパティの分だけ、TableColumnHeader要素(プロパティ名のラベル)とTableColumnItem要素(プロパティ値)を1:1で定義していけばOKです。
以上を踏まえてprocess.format.ps1xmlを改変して、前回作成したWinscript.Driveクラスの書式設定ファイルdrive.format.ps1xmlを作成してみました。
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?> <Configuration> <ViewDefinitions> <View> <Name>drive</Name> <ViewSelectedBy> <TypeName>Winscript.Drive</TypeName> </ViewSelectedBy> <TableControl> <TableHeaders> <TableColumnHeader> <Label>Name</Label> <Width>4</Width> </TableColumnHeader> <TableColumnHeader> <Label>VolumeName</Label> <Width>15</Width> </TableColumnHeader> <TableColumnHeader> <Label>Type</Label> <Width>15</Width> </TableColumnHeader> <TableColumnHeader> <Label>RootPath</Label> </TableColumnHeader> <TableColumnHeader> <Label>Size(GB)</Label> <Width>25</Width> <Alignment>Right</Alignment> </TableColumnHeader> <TableColumnHeader> <Label>Used(%)</Label> <Width>7</Width> <Alignment>Right</Alignment> </TableColumnHeader> </TableHeaders> <TableRowEntries> <TableRowEntry> <TableColumnItems> <TableColumnItem> <PropertyName>Name</PropertyName> </TableColumnItem> <TableColumnItem> <PropertyName>VolumeName</PropertyName> </TableColumnItem> <TableColumnItem> <PropertyName>Type</PropertyName> </TableColumnItem> <TableColumnItem> <PropertyName>RootPath</PropertyName> </TableColumnItem> <TableColumnItem> <ScriptBlock>[int]($_.Size/1GB)</ScriptBlock> <FormatString>{0:#,#}</FormatString> </TableColumnItem> <TableColumnItem> <ScriptBlock>[int]($_.UsedSpace*100/$_.Size)</ScriptBlock> </TableColumnItem> </TableColumnItems> </TableRowEntry> </TableRowEntries> </TableControl> </View> </ViewDefinitions> </Configuration>
前回作成したスクリプトを実行後、このdrive.format.ps1xmlファイルを
Update-FormatData -AppendPath .\drive.format.ps1xml
のようにして現在のセッションに読み込んでやることで、以降は定義した関数を実行すると、
PS> Get-Drive Name VolumeName Type RootPath Size(GB) Used(%) ---- ---------- ---- -------- -------- ------- C: LocalDisk C:\ 112 88 D: LocalDisk D:\ 466 63 Q: CompactDisc Q:\ V: NetworkDrive \\server\D 1,397 64
このように定義した型のオブジェクトに対しても、綺麗な書式で出力することができるようになるわけです。
まとめ
ここまで全三回にわたって、「関数の定義」「型の定義」「出力書式の定義」の基本のきについて説明してきました。基本とはいえ、PowerShellでがっつりとちゃんとした関数を書く上で真っ先に押さえておかないといけないことばかりですし、逆にここまで必要最小限に絞った記事もあまりないかなと思い、まとめてみました。参考にしていただければ幸いです。
さて、PSアドベントカレンダー2012もこれで終わりです。皆様、よいクリスマス…はもう終わりなので、よいお年を!
※終わりと言っておきながら実は明日以降、ロスタイムとしてもうひとかたご登場の予定です。ご期待ください。
2012/12/14
型を定義する方法 [PS Advent Calendar '12]
本記事はPowerShell Advent Calendar 2012の14日目の記事になります。
前回(アドベントカレンダー1日目)は「PowerShellらしい関数の書き方」と題して、パイプライン内でうまく他のコマンドと連携させるための関数をどう書けばいいのか、ということについて書きました。前回の関数の例では入力型と出力型がstringだったのですが、実際は自分で定義した型を入力、出力値に取るように書くのが普通かと思います。今回は、それをするためにどうやって型を定義するのか、そしてその型を関数にどう指定するのか、という話をします。
PowerShellにはクラス定義構文がない
そもそもの話になるんですが、型を定義する、つまりはクラスを記述するためのPowerShellのステートメントやコマンドレットが無いため、PowerShell単独ではできません。なので無理です以上おしまい。…というわけにはいかないので、実際はどうするのがいいのかという話をしていきます。
方法としては大きく分けて二つあると思います。
1.C#など他の.NET言語を用いてクラスを記述する
2.ユーザー定義オブジェクトを作成する
今回は1の方法を説明します。
C#を用いてクラスを記述する
つまりはPowerShellでクラスを定義できないなら、C#を使えばいいじゃない。ということです。幸いPowerShell 2.0からはAdd-Typeというコマンドレットを用いると、C#やVBなど.NET言語のソースをその場でコンパイルしてアセンブリとして現在のセッションに読み込むことが可能です。
たとえば、論理ドライブを表すDriveというクラスを定義してみます。
Add-Type -TypeDefinition @" namespace Winscript { public enum DriveType { Unknown, NoRootDirectory, RemovableDisk, LocalDisk, NetworkDrive, CompactDisc, RAMDisk } public class Drive { public string Name {get;set;} public string VolumeName {get;set;} public DriveType Type {get;set;} public long Size {get;set;} public long FreeSpace {get;set;} public long UsedSpace {get;set;} public string RootPath {get;set;} } } "@ -Language CSharpVersion3
このようにC#のコードを文字列として-TypeDefinitionパラメータに与えると、コンパイルされて指定のクラス(ここではWinscript.Drive)がロードされます。
ここで-Language CSharpVersion3というパラメータは指定コードをC# 3.0としてコンパイルすることを指定するため、今回使用している自動実装プロパティなどC# 3.0の構文が利用できます。なおこのパラメータはPowerShell 3.0では不要です。ただし明示しておくとPowerShell 2.0でも正しく動作します。というのも-Languageパラメータ省略時はPowerShell 2.0ではC# 2.0でコンパイルされるのですが、PowerShell 3.0ではC# 3.0でコンパイルするためです(逆にPSv3でC#2.0でコンパイルするには”CSharpVersion2”という新しく追加されたパラメータ値を指定します)。
なお、ここでは-TypeDefinitionパラメータを用いてクラス全体を記述しましたが、この例のように列挙体も定義してそれをプロパティの型にするなどせず、すべて基本型のプロパティで完結するのならば、-MemberDefinitionパラメータを使ってメンバ定義だけを行う方が記述が短くなります。以下はWinscript.Manというクラスを定義する例です。
Add-Type -Namespace Winscript -Name Man -MemberDefinition @" public int Age {get;set;} public string Name {get;set;} "@ -Language CSharpVersion3
例のようにC#のコード内には特にロジックを記述せず、単にデータの入れ物となるクラスにとどめておくのが良いかと思います。別にロジックを書いてもいいのですが、ISEで記述する限りはC#の編集に関してはただのテキストエディタレベルの恩恵しか受けないですし、それなら最初からVisual Studio使ってC#で全部コマンドレットとして書けばいいのに、ともなりかねないので。PowerShellでは実現困難な処理などがあればそれをメソッドとして書く程度ならいいかもしれません。ただしメソッドを記述してもそれをユーザーに直接使わせるというよりも、関数でラップして使わせる形が望ましいでしょう。
さて、次はこのクラスのオブジェクトを扱う関数を記述していきます。
定義した型のオブジェクトを扱う関数の記述
ここでは3つの関数を定義しています。Get-Drive関数はシステムに含まれるすべての論理ドライブを取得、Show-Drive関数は指定のDriveオブジェクトをエクスプローラで開く、Set-Drive関数は指定のDriveオブジェクトのボリューム名(VolumeNameプロパティ)を変更するものです。
ちなみに関数の動詞部分(ここではGet, Show, Set)は、Get-Verb関数で取得できるリスト以外のものは基本的に使わないようにします。モジュールに組み込んだ場合、インポートのたびに警告が出てしまうので。
関数の基本については前回に書いているので、今回のコードはそれを踏まえて読んでみてください。
function Get-Drive { [OutputType([Winscript.Drive])] param( [string[]]$Name, [Winscript.DriveType]$Type ) Get-WmiObject -Class Win32_LogicalDisk | ForEach-Object { if($null -ne $Name -and $Name -notcontains $_.Name) { } elseif($Type -ne $null -and $_.DriveType -ne $Type) { } else { New-Object Winscript.Drive -Property @{ Name = $_.Name VolumeName = $_.VolumeName Type = [enum]::Parse([Winscript.DriveType],$_.DriveType) RootPath = if($_.ProviderName -ne $null){$_.ProviderName}else{$_.Name + "\"} Size = $_.Size FreeSpace = $_.FreeSpace UsedSpace = $_.Size - $_.FreeSpace } } } }
(↑10:33 foreachステートメントではなくForEach-Objectコマンドレットを使うように修正。Get-*な関数のようにパイプラインの先頭で実行する関数でも、内部でPowerShellのコマンドレットや関数の出力を利用する場合は、配列化してforeachするよりも、ForEach-Objectで出力を逐次処理した方が良いですね。内部関数の出力がすべて完了してから一気に出力するのではなく、内部関数が1個オブジェクトを出力するたびに出力するようにできるので。)
function Show-Drive { [OutputType([Winscript.Drive])] param( [Parameter(ValueFromPipeline=$true,Mandatory=$true)] [Winscript.Drive[]] $Drive, [switch] $PassThru ) process { foreach($d in $Drive) { Start-Process $d.Name if($PassThru) { $d } } } }
function Set-Drive { param( [Parameter(ValueFromPipeline=$true,Mandatory=$true)] [Winscript.Drive] $Drive, [Parameter(Mandatory=$true)] [string] $VolumeName ) process { Get-WmiObject Win32_LogicalDisk -Filter "DeviceID='$($Drive.Name)'" | Set-WmiInstance -Arguments @{VolumeName=$VolumeName} | Out-Null } }
細かい説明は省きますが、前回説明した関数の基本フォーマットに、自分で定義した型を適用してロジックを書くとこうなる、という参考例としてとらえてください。
一つだけ前回に説明し忘れてたことがあります。それは[OutputType]属性です。これは文字通り、関数の出力型を指定するものです。この属性を指定しておくと何が嬉しいかというと、関数の出力を変数に代入したりWhere-Objectコマンドレットでフィルタをかけるコードを記述する際、関数の実行「前」にもプロパティ名をちゃんとタブ補完してくれるようになります。残念ながらこの静的解析機能はPowerShell 3.0からのものなので2.0だとできませんが、OutputType属性自体は2.0でも定義可能なので、定義しておくことを推奨します。
さて、型の定義と関数の定義をしたので実際に関数を実行してみます。
PS> Get-Drive # 全ドライブ取得 Name : C: VolumeName : Type : LocalDisk Size : 119926681600 FreeSpace : 12262494208 UsedSpace : 107664187392 RootPath : C:\ Name : D: VolumeName : Type : LocalDisk Size : 500086886400 FreeSpace : 198589583360 UsedSpace : 301497303040 RootPath : D:\ Name : Q: VolumeName : Type : CompactDisc Size : 0 FreeSpace : 0 UsedSpace : 0 RootPath : Q:\ Name : V: VolumeName : Type : NetworkDrive Size : 1500299390976 FreeSpace : 571001868288 UsedSpace : 929297522688 RootPath : \\server\D PS> Get-Drive | where {$_.Size -gt 1TB} # Where-Objectでフィルタ Name : V: VolumeName : Type : NetworkDrive Size : 1500299390976 FreeSpace : 571001868288 UsedSpace : 929297522688 RootPath : \\server\D PS> Get-Drive -Type NetworkDrive | Show-Drive -PassThru | ConvertTo-Csv #ネットワークドライブのみエクスプローラーで開く。取得結果はCSVとして出力。 #TYPE Winscript.Drive "Name","VolumeName","Type","Size","FreeSpace","UsedSpace","RootPath" "V:","","NetworkDrive","1500299390976","571001868288","929297522688","\\server\D" PS> Get-Drive -Name D: | Set-Drive -VolumeName 新しいドライブ # D:ドライブのボリューム名を指定。(管理者権限で)
関数をきちんとPowerShellの流儀に従って記述したおかげで、このようにPowerShellの他の標準コマンドレットと同様の呼び出し方ができ、自作関数やそれ以外のコマンド同士をうまくパイプラインで繋げて実行することができています。
さて、おそらく一つ気になる点があるとすれば、ドライブの容量表示が見づらいということでしょう。容量であればGBとかの単位で表示してほしいですし、大きい数字は,で桁を区切ってほしいですよね。じゃあそういう値を文字列で返すプロパティを定義してやる必要があるというかと言えばそんなことはなく、PowerShellには型に応じた表示フォーマットを指定する方法が用意されています。次回はそのあたりを解説しようと思います。
また、C#とかめんどくさいしもうちょっと楽な方法はないのか?ということで、最初の方でちょっと触れた、ユーザー定義オブジェクトを利用する方法も、余裕があれば次回に。
さて、PSアドベントカレンダー、明日はsunnyoneさんです。よろしくお願いします!
2012/12/01
PowerShellらしい関数の書き方 [PS Advent Calendar '12]
今日から、PowerShell Advent Calendar 2012が始まりました。初日は私が担当させていただきます。お題は旬の話題、PowerShell 3.0の新機能!…ではなく、初心に返って、PowerShellの「関数」ってどう書くのがいいのかというお話をします。PowerShell 3.0どころか、大部分はPowerShell 1.0から変わっていない基本の話です。
これは今までずっと書きたかったネタですがなかなか書く暇がなくて放置してたものです。3.0の話はきっと他の皆さんが書いて下さるはず!私もまた順番が回ってきたら書こうと思います。
PowerShellの関数は従来言語とだいぶ違う
PowerShellを使いこなすようになってくると、他の言語を使う時と同じで、定型処理は関数として一つにまとめたくなってきます。ところが他の言語と同じような感覚で関数を書くと、どうもうまくいかないのです。
たとえば引数にフォルダパスとフォルダ名を指定すると、指定フォルダが存在すればFalseを返し、存在しなければ作成してTrueを返す関数を書いてみました。
function MakeDir($path,$name) { $newDirPath = Join-Path $path $name if((Test-Path $newDirPath)) { return $false } else { New-Item -ItemType Directory -Path $newDirPath return $true } }
実行は
MakeDir("C:\test","NewFolder")
と、メソッド風に呼び出すことはできないので、コマンドレット風に
MakeDir C:\test NewFolder
と呼び出せばいいんですが(まあ最初はここもつまづきポイントではありますが)、この実行結果は以下のようになります。
ディレクトリ: C:\test Mode LastWriteTime Length Name ---- ------------- ------ ---- d---- 2012/12/01 7:51 NewFolder True
フォルダが作成されてTrueが返却されることを想定していたのに、なんか余計な出力が混じってしまっています。なんでしょうこれは?
実はPowerShell関数内で値が出力されると、returnキーワードがついてなくてもすべて呼び出し元に出力されるという仕様なのです。そしてPowerShellにおけるreturnキーワードの効果は「後続処理を打ち切って呼び出し元に戻る。ただしreturnの後に値が指定してあればそれを最後の値として戻す」となります。そのため、呼び出し元に返したくない出力が関数内にある場合は、すべて[void]にキャストしたり|Out-Nullとしてリダイレクトするなどして出力を破棄する必要があるのです。このMakeDir関数の場合はNew-Itemコマンドレットが作成したフォルダのFolderInfoオブジェクトを出力するので、これをNew-Item -ItemType Directory -Path $newDirPath | Out-Null のように破棄してやる必要があるわけです。
パイプラインの動作
先ほどの例を見ると、「いやいやなんでそんな訳のわからない仕様なんだよ、returnあるときだけ値返せよ」とお思いかと思います。しかしこれはPowerShellの特長の一つである、コマンドのパイプラインによる連携を行うための仕様なんです。
ここでコマンドを繋ぐパイプラインがどういう動作をしてるか、おさらいします。
Get-Process | where {$_.Handles -ge 500} | foreach {$_.Path}
これはハンドル数が500以上のプロセスのメインモジュールファイルのパスを取得するというコマンドで、別に何の変哲もありません。ところが、このコマンドがやっている処理を、次のように誤解してませんでしょうか?
@ 稼働中のすべてのプロセスの一覧を配列として取得する。
A @で取得した配列を走査して、Handlesプロパティの値を調べる。Handlesが500以上のオブジェクトだけ抽出した配列を生成する。
B Aで生成した配列を列挙して、{}内のスクリプトをそれぞれ実行する。
しかし、これは間違いです。
正しくは
@ 稼働中の1つのプロセスオブジェクトを取得して次のコマンドへ送る。
A そのプロセスのハンドル数が500以上なら、次のコマンドへ送る。そうでないなら@に戻る。
B そのプロセスに対して{}内のスクリプトを実行する。まだ未取得のプロセスが残っていれば@に戻る。
という動きをしています。つまり、パイプラインの手前で一旦すべての処理を終えてから、出力オブジェクトがまとめて配列という形で次のコマンドに送られるのではなく、オブジェクトがパイプラインの先頭から末尾に向けて1つずつ通過していき、それが先頭コマンドの出力オブジェクト数だけ繰り返される、という動作をしているのです。
これがPowerShellのパイプライン処理が、従来の処理系での関数と決定的に違うところで、パイプラインによって複数のコマンドが、あたかももとからあった単一のコマンドのように密に連携するわけです。
(この処理、.NETのLINQにちょっと似てると思う方もいらっしゃると思います。しかしLINQとは全然違うものです。なんせPowerShellはLINQより先に世に出てますし! しかし類似点も多いのでいずれ比較なんかを書きたいと思ってます)
パイプラインで連携可能な関数の書き方
さて、先ほどのパイプラインの話ではコマンドレットを連携させていました。しかしPowerShellにおいてはコマンドレットも関数も、それが.NETのクラスかPowerShellのスクリプトなのかの違いがあるだけで、基本は同じ「コマンド」です。なので、関数もコマンドレットと同様、適切な記述をおこなえば、パイプラインでコマンド同士を連携させることが可能です。
以下に、Get-Repeatという関数の例を挙げます。この関数は-Textパラメータに文字列を指定し、-Countパラメータに回数を指定すると、指定文字列を指定回数分連結した文字列を出力する、という何の変哲もない関数です。しかしパイプラインからの入力を受け付け、次のパイプラインへ出力することを想定した作りになっています。
function Get-Repeat { param( [Parameter(ValueFromPipeline=$true,Mandatory=$true)] [string[]] $Text, [int] $Count=2 ) begin { } process { foreach($s in $Text) { $s * $count } } end { } }
以下は実行例です。
PS> Get-Repeat -Text ab -Count 2 abab PS> "ab" | Get-Repeat -Count 2 abab PS> Get-Repeat -Text ab,cd -Count 2 abab cdcd PS> "ab","cd" | Get-Repeat -Count 2 abab cdcd
このように、パラメータに値を指定してもパイプラインから入力しても、スカラー値(配列ではない単一のオブジェクト)でも配列でも、正しく処理されています。
この関数をポイントごとに見ていきましょう。
PowerShellの正式な関数はparam節、beginブロック、processブロック、endブロックに分かれます。param節にはパラメータを指定します。beginブロックにはパイプラインで連携した際、最初の1回だけ実行される初期化処理、endブロックには最後の1回だけ実行される後始末処理を記述します。beginとendは今回の例では内容を省略しています。processブロックには、パイプラインから入力された1つのオブジェクトに対してその都度実行される処理を記述します。
ちなみに、
コマンド@|コマンドA|コマンドB
とある場合、各コマンドにおけるbegin,process,endブロックは次のような順番で呼び出されます。
コマンド@begin→コマンドAbegin→コマンドBbegin→{コマンド@process→コマンドAprocess→コマンドBprocess→コマンド@process…}→コマンド@end→コマンドAend→コマンドBend
processブロックでの処理は、通常はパイプラインだけではなくパラメータからも値を入力できるようにしておきます。そのためにはparam節に記述するパラメータに「このパラメータはパイプラインから値を入力することもできる」を意味する[Parameter(ValueFromPipeline=$true)]という属性を指定します(この属性はPowerShell 2.0から利用可)。今回のパラメータには「このパラメータは必須である」を意味するMandatory=$trueもあわせて指定しています。
先述の通り、パイプラインから入力される場合は配列ではなくオブジェクトが単体で渡されるのですが、パラメータから入力される場合はスカラー値と配列値、どちらの可能性もあるため、[string[]] のようにパラメータの型を配列型にしておくことで、どちらを指定しても処理できるようにしています。
processブロックではパラメータ経由で配列値が渡された場合に、各要素に対して処理を行うためforeachループを設けています。ちなみにスカラー値が渡された場合もforeachは問題なく処理します。
processブロック内では、returnは記述しません。returnするとその時点で関数が終了してしまうので正しくすべての出力ができなくなってしまいます。
特にこの例の関数のように入力型と出力型が同一の場合は、processブロックでは1オブジェクトの入力に対して、1オブジェクトを出力するようにしておくと、他のコマンドと連携させやすくなります。ただしWhere-Objectコマンドレットのようにフィルタ処理を行う関数の場合は、条件によっては何も出力しないようにします(空の配列とか$nullを返すのではないことに注意)。もちろん入力オブジェクトから何らかの配列値を出力する場合もありえます。
最低限、これらのポイントを押さえて関数を記述すると、他のコマンドとパイプラインで連携しやすい、PowerShellらしい関数を書くことができると思います。
まとめ
PowerShellでは従来言語と同じ感覚で関数を書くと、うまくいかないことが多いです。もっとも単に処理をひとまとめにしたいというニーズだけならばそれでも問題ないのですが、関数同士を組み合わせたいときに問題が顕在化します。
パイプラインの真の動作を理解し、パイプラインの中に組み込んで動作させることを想定した関数を記述すると、他のコマンドレットあるいは自作関数と連携しやすくなり、PowerShellの真の力を解放することができると思います。
PowerShell Advent Calendar 2012の1日目にしてはえらい固いネタかもですが、基本をおさらいするのも大事ですよね。
さて、明日は@jsakamotoさんの番です。よろしくお願いします。
Copyright © 2005-2018 Daisuke Mutaguchi All rights reserved
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